試作「破壊するべきオブジェ—2011年版」
メトロノームの前にあるのは、福島で採取した土です。駅前にある花壇の中で、巣を
作るアリが掘り出していたものを掬って持って来ました。測定してはいませんが、
かなり高度の放射能が検出されると思います。
3月11日以降、私たちは 盲目の状態に置かれています。
どんなに見つめても、外見からは、放射能の有無を識別できないからです。
ただ、心の奥底に不安や恐怖を募らせながら、ガイガー計数管を頼りに歩き回るのみです。
この試作品はマン・レイの「破壊するべきオブジェ」のパロディです。マン・レイは、
自作の使用方法についてこう記しています。
「愛していたのにもう会うことの出来ない人の写真から、その眼を切り抜く。
メトロ ノームの振り子にこの眼を取り付け、思い通りのテンポになるように重りを調整する。
そして、忍耐の限度まで鳴らし続ける。ハンマーで狙い定め、そのすべてを破壊する。」
しかし、このオブジェはマン・レイによって破壊されるのではなく、35年後、ダダに
反対する学生たちによって破壊されました。
そして、マン・レイは、このオブジェを 再び作り「破壊不能のオブジェ」と名づけたといいます。
マン・レイが切り抜いたのは、恋人であったリー・ミラーのパッチリとした眼ですが、
ここに切り抜かれているのは新聞の頭痛薬の広告で見つけたある女性の閉じた眼です。
かつて閉じた眼は、瞑想や内面の世界の象徴でした。
しかし、現代、閉じた眼は言う に言われぬ苦痛の象徴ともなっています。
マン・レイの使用方法に戻って言えば、試作「破壊するべきオブジェ」は、いつ破壊 されるのでしょうか。
それとも永遠に続く「不滅のオブジェ」となってしまうので しょうか。